CDRTの概要
 〜住民の視点から総合的な支援を

ここでは、私がスタッフとして働いている国連プロジェクトについて紹介します。

このプロジェクトの名前は、Community Development for Remote Townships (辺境地域の村落開発)といい、略してCDRTと呼ばれています。国連開発計画(UNDP)が資金を提供し、国連プロジェクトサービス機関(UNOPS)が実施・管理を行っています。私はUNOPSの要請で派遣された国連ボランティア(UNV)としてこのプロジェクトに参加しています。

CDRTはその名前どおり、ミャンマーの中でも辺境地域(カチン州、チン州、ラカイン州)を対象としています。これらの地域はそれぞれの州と同じ名前の少数民族で主に占められています。共通語であるビルマ語をしゃべる人もいますが、農村ではそれぞれの言語を話しています。ミャンマーは世界でももっとも貧しい国の一つ(一人あたりの推定GDPは約300ドル)で、その国の辺境地域ですので人々の生活はたいへんなものです。このプロジェクトでは、辺境地域の農村でももっとも貧しい人たちを対象として、さまざまな形で支援を行っています。

CDRTは、その前身であるプロジェクト(QUIPS.1994-96)から数えると、今は第4フェーズ(2002年12月から3年間)にあたります。常に試行錯誤を繰り返し、現在のような形で実施するようになったのは昨フェーズ(99年末から2年半)からです。対象は、3州(state)、13郡(township)、423村落(village)の約4万世帯、約22万人です*。

*2005年3月にエリア拡張の決定がなされ、新たに13タウンシップがCDRTの対象地域となりました。

農村の開発を草の根レベルで支援するプロジェクトですので、村の数が多いだけにスタッフの数も多く、全部で200人以上という大所帯です。全体を管轄するヤンゴン事務所はごく小さなもので、ほとんどのスタッフは現場勤務です。Stateレベル、Townshipレベルにそれぞれマネジャー1人ずつおり、このほかに各Townshipには現場で活動するTownship Facilitator(TF)が4人とCommunity Facilitator(CF)が7〜9人ほどいます。通常CFは対象村落の出身者で、常に担当する村々を周りながら開発支援を行います。各CFは4〜6村落を担当します。

CDRTがもっとも重視している点は、農村の中でももっとも貧しい人たちを対象とし、彼ら/彼女らの能力向上・組織強化を通じた生計の向上です。

このプロジェクトの基盤となるのはSRG(Self Reliance Group)という女性を中心としたコミュニティ組織です。また、社会セクター(Social Sector)と生産セクター(Productive Sector)に分けて支援を行っていますが、農業や教育、保健などのセクターには縛られずに、あくまでも総合的(Holistic)な視点から住民の生計向上のお手伝いを行っています。

「総合的」とは何かというと、要するに農村の貧しい人たちが必要とすることは何でも支援するということです。例えば、医療サービスの提供だけを専門にやる機関やプロジェクトがあるとしますが、農村における貧困というのは様々な要素が複雑に絡み合って引き起こされているので、医療サービスだけをやっても効果は限定的です。CDRTでも実証済みですが、一番効果があるのは実は予防なので、各家庭での特に母親に対する保健教育というのも効果的で、組み合わせる必要があります。さらに、医療・保健だけではなく、やはり食べるものがなくては栄養状態が悪く病気にもなりやすくなるので、農業や畜産、その他の所得手段を支援するような活動も住民にとっては必要となってきます。このように、援助をする側の都合で医療というように支援する分野を限定するのではなく、あくまでも農村の人たちが必要としている分野のお手伝いをするのが総合的アプローチというものであり、CDRTでもそのようなアプローチをとっています。またもう一つ重要なこととしては、これらの開発活動の主導権を住民が握り、村の開発を進めていくということです。


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