現場ジャーナル 1月31日-2月6日
2005年1月31日(月)
研修をやっているのは教育省傘下の某局です。研修は4階でやっているのですが、この大ホールの隣に面白いものがあります。仏壇の部屋です。
部屋の大きさは12畳くらいです。床には赤いじゅうたんが敷かれています。窓に面したところには仏壇があって、金色に輝く仏像やらお供え物やら灯篭のようなものやらが置かれています。ここはパゴタと同じように神聖な場所で、入るには裸足にならないといけないようです。
たぶんミャンマーでは珍しくもない風景なのでしょうが、ちょっと考えると不思議な気がします。役所に仏壇が置いてあるのです。ミャンマーにはイスラム教徒もヒンズー教徒もキリスト教徒もいます。でもなぜか役所は仏教なのです。
これはいわゆる「ビルマ化」と呼ばれる文化政策の一環です。ミャンマーには100以上の少数民族が暮らしているのですが、これをまとめるための「求心力」を政府は必要としています。ビルマ語を話し、仏教を信じ、ビルマ文化を広める。この一環として何の違和感もなく仏壇が役所の中に祭られているわけです。
金曜日に研修をやっていたときには隣の部屋からお経を唱える声が聞こえてきました。政教分離という考えはミャンマーにはないようです。
2005年2月1日(火)
ミャンマージョークを少々。
下の写真は私の上司がチン州北部へ行ったときに撮ったものです(私は一緒に行っていませんでした)。
右の写真にご注目。何と書いてあると思いますか。
The Tropical Cancer Passes Here(熱帯ガンの通過地点)
言いたいことは、北回帰線(Tropic of Cancer)の通過地点であることなのですが、看板を書いた人が間違えたようです。まあ、ちょっとした間違いなのですが、熱帯ガン(あるとしたら?)にかかってしまうとうのは怖いですねえ。今朝はこの写真を発見してオフィスのみんなで大うけしてしまいました。
そこで思い出したもう一つの話を。ヤンゴンへ旅行に来て帰国の途につく人は必ず目にする看板が空港の手前にあります。金色の立派なゲートにはこう書かれています。
Towards a modern developed country(近代先進国家へ向かって)
これもまあ言いたいことはわかるのですが、笑ってしまうのはこれが空港へ向かう方向にあるということです。これから飛行機に乗ってミャンマーを出国する人から見ると、まるでミャンマーが非近代的で、そこを出発して近代先進国家へ向かうというような意味にとれてしまいます。ちなみにこの裏、つまり空港からヤンゴンへと入る方向に書いてあるのは「ヤンゴンへようこそ」ですから、よけいにこのコントラストが際立ちます。
2005年2月2日(水)
昨日に引き続きミャンマージョークを。
昨年末に未曾有の被害をもたらした津波がありましたが、幸運にもミャンマーへの被害はそれほどではありませんでした。このジョークは、なぜ津波がミャンマーへと押し寄せなかったのかについてです。
ミャンマーを津波から救ったのはなんと4匹の魚でした。 |
この話のどこが面白いのか。解説が必要なのですがこれがなかなか難しい。というのも、この4匹の魚は歴代の政権トップの人たちを指すからです。名前を出すことは少々危険です。でも1匹、1匹がそれぞれの性格をうまく描写したり、名前を文字ったものになっているので、ミャンマー人がこの話を聞けば一発でわかります。例えば、4匹目の魚は最近退陣した某大臣のことです。彼は在職中にビジネスや賄賂などで膨大な財産をつくったといわれています。その金額は正確にはわかりませんが相当なもので、だから津波も最後には納得して帰っていったのです。もっともこの人はいま牢獄の中ですので、お金を使うこともできませんが。あー哀れなり。
もう一つ面白いのは「魚」に例えているところです。ビルマ語で名前の前に「魚(Nga、ンガー)」という単語をミスターなどの代わりに付けると、その人を侮辱する表現になるそうです。こんなところでもミャンマー人の心情が垣間見えてきます。というふうに考えると、このジョークには二重三重の工夫があって、かなりよくできています。
日本でも江戸時代にこんな川柳がありました。
「白河の清きに魚も住みかねて、もとの濁りの田沼恋しき」
なんだか似ていると思いませんか。いつの時代でもよく考える人がいるものです。それにこういう話はどこからともなく広まるものです。ほんと感心してしまいます。
(津波の話題をジョークにしましたが、被害に遭われた方々やそのご家族の心情を害することを意図したものではありません。お亡くなりになった方々のご冥福をお祈りします。)
2005年2月3日(木)
以前にも紹介したことがあると思いますが、ミャンマー人運営によるNGOに委託して保健教育をプロジェクト対象地域で行っています。ミャンマーではNGOとして登録する許可を政府から得るのがとても難しく、この組織は厳密にはNGOではありません。ですが、わかりやすくするためにとりあえずNGOと呼んでおくことにします。
それはともかく、このNGOがひどい。何がひどいかというと、経営陣のお金に対する汚さです。せっかく現場ではこのNGOのスタッフががんばって村人たちにも評価される活動を行っているというのに、本部の役員たちがとにかく経営をムチャクチャにしています。特にひどいのは為替交換レートを利用した金儲けの実態です。ミャンマーには2つも3つも為替交換のレートがあってとても複雑です。国連では市場レートを採用していて、通常どの会社も個人も外貨を交換するときはこのレートを適用できます(いちおう闇レートですが)。ここ最近の市場レートは1米ドルに対して900から1000チャットぐらいでした。にもかかわらず、このNGOは750チャットで交換していたのです。わかりやすくいうと、1ドル使うごとに150から250チャット(約15-25円)がNGOの懐へと消えるわけです。契約金額はここでは書けませんが、全体の15%から20%ですからアホみたいな、おいしい話です。にもかかわらず、このNGOは現場での活動に使うお金が足りないと何度も何度も言うのです。まったく信用ができません。
この実態は前々からつかんではいたのですが、これまでは彼らの良心に任せて勧告だけをしてきました。しかし、NGO側は契約書に交換レートの明記がないのをいいことに、750チャットで交換することを主張してきました。このような状態がしばらく続いてきましたが、つい最近、外部から監査を入れたあと、今回は文書で正式に、市場レートで交換しプロジェクトからの委託金をちゃんと保健教育活動に使うようにと要請しました。
そして、つい2、3日前に回答が来ました。それには何と、600チャットで交換していることが明記されていました。彼らとしては、600チャットから「交渉」を始めれば、私たちの主張する市場レートとの間をとって、彼らが落とし所として考えている750チャットに落ち着けるとでも考えているかのようでした。これは交渉の余地がある問題ではなく、NGOとして公共のお金を使う責任・常識の問題です。このNGOはとんでもない勘違いをしているようです。もうこれは頭にくるのを通り越して、あきれてしまいます。あれだけ現場ではスタッフががんばっているのに、そのスタッフには先月の給料も払わず、村での活動資金も現場へ送らず、本部では為替の差益でぬくぬくとやっているのです。良心の呵責に襲われないのか不思議に思ってしまいます。
これから先は法的手段に訴える可能性がありますが、これ以上は詳細に書けません。だた、もしこれからミャンマーでNGO委託の仕事を考えている方がいらっしゃいましたら、お気をつけください。このNGOの名前が必要でしたらメールででもご連絡ください。こういう組織は永久に開発支援の業界から葬り去られるべきです。利益尊重の営利活動でしたらまだわかります。でも、これは貧しい人たちの生活改善に使うために世界各国の国民の血税から拠出されたお金なのです。
私も今まではこのNGOの経営者と話をしたりして仲良くやってきたのですが、今回の件で本当にがっかりさせられました。