現場ジャーナル 1月24日-30日


2005年1月24日(月)

またまた研修が始まりました。今回は9日間です。47人が参加しています。新しく入ってきたスタッフが26人、もととCDRTで働いていて昇進を受けた人が19人です。残り2人は関係省庁からの参加です。この研修は新たにTownship Facilitator(TF)となったスタッフに、開発支援の基本から村で働く上でのスキル、求められる態度や価値観、プロジェクト運営に関する事務の諸手続き、国連プロジェクトで働くための倫理・行動規範、その他プロジェクトに関する技術的な内容を含みます。私は前回の研修と同じように、スキルの部分と開発支援の基本についての研修を担当しています。

今日もまた疲れました。でも、学びが多く充実感のある一日でした。またミスもやらかしました。そこから学ぶことも多かったです。改めて気づいたことは、自分は準備がされていない研修をやるのがあまり慣れていないということです。要はアドリブが苦手ということでしょう。ただ、一方で「参加型」だと(だからこそ)それが案外うまくいくということもわかりました。

私は研修の準備に時間をかけて完璧にしないと不安なので、プログラムはしっかりと組んであるのですが、それがひとたび違う方向へ行くのに不安になります。特に今日のプログラムではそれが不安でした。少なくとも途中までは。今日のアクティビティでは開発の概念という抽象的なものを扱い、さらにそれを単にこちらから答えを渡すのではなく、参加者にその定義が出てきたプロセスを体験してもらい、自分で定義にたどり着くことを目指しています。難しいと思っていたのは、こちらで参加者をコントロールしない一方で、定義ははじめからある程度決まってしまっているという点です。この矛盾(?)を始める前は気にしていたのですが、やってみると絵に描いたようにちゃんと答えが出てくるのです。これが、参加型のすごいところでしょう。

でも課題はまだまだ山積みです。もっと流れをスムーズにできるのではないか。もっと参加者を巻き込んで、議論を活発にできるのではないか。もっとよい質問・問いかけをできるのではないか。もっと適切な実例や喩えを使って、気づきや理解を促したり、議論を活発にしたり、みんなが参加したりできるのではないか。

話は別問題へ。今日は時間管理もうまくいきませんでした。印象として、思っていた内容の60%ぐらいしかできませんでした。プログラムの作成段階からもっと現実的な時間想定をしないと。欲張ってばかりではだめで、もっと焦点を絞って、ねらいをクリアにしたうえでアクティビティの内容を考えないとと反省しているところです。


2005年1月26日(水)

新人研修の内容は今日から「スキル」へと移りました。今日はまず昨日までのおさらいとして村落開発ワーカーとしての価値観や態度に関する質問をしました。そのあと、各人の偏見や意見・見方・考え方の違いを理解して、その偏見が何に起因するのかを考えるために少々センシティブな質問をしました。あらかじめ部屋の一角を「賛成」、別の一角を「反対」としておき、質問に対する答えを移動することによって表現するという方法をとりました。その後は、ラポール、傾聴などコミュニケーションおよびファシリテーションのスキルへと移っていきました。

この価値観や偏見に関する質問の答えがかなり面白かったのでいくつか共有してみたいと思います。質問に答えたのは、研修に参加している20代から50代のミャンマー人で、男性が21人、女性が23人です。ほとんどが大学を卒業したいわゆる「教育を受けた」人たちです。

1)女性のほうが村落開発ワーカーとして向いている。
これはほぼ半々に分かれました。YESと答えたうちの2人が男性でした。

2)大学を卒業した人のほうが村落開発ワーカーとして向いている。
これは18人がYESと答えました。ちょっと意外でしたが、ここには高学歴信仰というもののにおいを感じました。あくまでも一般論ですが、ミャンマーの人たちは学歴、社会的地位、外国人に弱いようです。

3)ミャンマー人女性は外国人と結婚すべきでない。
「すべきでない」が13人。「してもよい」が31人。

4)ヨーロッパの人たちはアフリカの人たちよりも優れている。
YESが41人。NOが3人だけ。予想はしていましたが少々がっかりしました。これについては後のセッションでより掘り下げて議論しました。このような一般化は非常に危険ですし、人種や出身地で人の能力や知能に差があるという考え方は、貧しい村人たちに接するときに大きな障害となりえます。

5)ミャンマーには男女差別はない。
「ない」が4割ほどいたのは意外でした。女性も何人か含まれていました。そんなわけはないと思いますが。感じていいないのでしょうか。

6)結婚時に女性は処女であるべきだ。
「処女であるべき」がなんと43人。「処女でなくてもよい」が1人だけ。はじめMustかShouldかで少し議論があり、「処女でなければならない」という表現には反対した人も、「処女であるべき」だったら賛成できると言っていた人が20人ぐらいいました。これらの表現にそんなに違いがあるのか少々驚きでした。

7)路上にポイ捨てをしてもよい。
全員が反対。ミャンマー人が路上に平気でポイ捨てをするのをたくさん見ているので、全員が反対したのはまたまた意外でした。この人たちが特別に意識が高いのか、よくわからなくなりました。

8)ミャンマーには人種・民族の差別はない。
「ない」と答えた人が29人、「ある」が15人。差別の例はたくさん知っていますが。これもちょっと首を傾げてしまいました。


2005年1月27日(木)

研修4日目終了。参加者は少々疲れ気味ですが活発です。すごいエネルギーを感じます。トレーナーとしても疲れてはいますが負けてはいられません。質が高く学びの多い研修にしたいです。

研修開始当初は、一部にかなり場を独占する人がいたので心配していましたが、それもだんだんとなくなってきています。そういう人の傾向としては、男性、年齢が高い、学歴が高い、今まで国際機関などでの経験があるなどが挙げられます。研修3日目からは、ラポール、傾聴、偏見のフィルター、村人に対する態度、参加者の観察(気持ちを理解する)、質問などのスキルを「体験」してもらったおかげで、ずいぶんと独占するような態度が減ってきました。ほんの2、3日で態度が変わるというのはすごいことです。

場を独占する、しゃべりすぎる、他の人に発言の機会を与えない、などの態度を研修の場でとる人は、村へ行っても同じようなことをしてしまいます。それはおそらく無意識にやっているのでしょう。でも、だからこそ怖いです。ファシリテーターは誰もが参加できる雰囲気や場を創るのが大きな仕事の一つです。今回の研修ではじめは場を独占していた人の多くは、非常にやる気があるし、能力も高いですから、態度さえ改められれば本当によい村落開発ワーカーになってくれると期待しています。


2005年1月28日(金)

5日間続いた私の担当した研修部分が終わりました。詳しくは「開発ワーカーのつぶやき」で書きますが、自己採点は60点ぐらいといったところでしょうか。プログラム自体はよかったと思うのですが、ふり返ると、あれもできた、これもできた、と思えるところがたくさんあります。


2005年1月29日(土)

今日は外部からトレーナーを招いてジェンダーについての研修を行いました。トレーナーは現場での経験が豊富で、研修の運び方もうまい人でした。私はあくまでもオブザーバーとして参加しましたが、学ぶことも多かったです。

一つは、私が森を見て、木を見ていなかったことです。この5日間、私がトレーナーをやっていたときは、参加者が44人と多かったこともあり、全体の雰囲気には気を配ることで精一杯でした。ですから、個々の参加者への配慮はアシスタントに任せて、これはこれでうまくいっていました。でも今日は小グループでの議論に参加してみて、多くのことが見えてくることがわかりました。特に、誰がより活発に発言し、誰が場を引っ張り、どのようにして意思決定やコンセンサスに至るのかなどなど。ここ最近は50人とか90人とかという大きなグループを相手にした研修が多かったので、個々の参加者への配慮を忘れかけていました。


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