ヤンゴン郊外の田園風景

2005年2月27日(日)

日曜日の午後、同僚の農場を訪ねました。ここがヤンゴンから1時間弱のところかと思うほど、のどかな田舎の田園風景が広がっています。前日に日本から到着したばかりの友人は、観光客では訪れることができないミャンマーの田舎を体験できて満足してくれたようです。ここにはマンゴー、バナナ、ライム、グアバなど南国の果物のほか、バラ、ジャスミンなど花も植えられています。ヤンゴンからそれほど離れてはいないのに、ここには穏やかで静かな時間が流れています。豚が放し飼いにされ、アヒルが小川を泳ぎまわり、牛が荷車を引いています。

私たち夫婦が住むインヤー湖畔からは西へ45分ほどドライブするとその農場に着きます。ヤンゴンの西を流れるフライン川にかかる橋を渡り、ひらすらまっすぐに15キロほど行くと右へ折れる小さな道があります。看板はビルマ語で書かれているのでよくわかりませんが、同僚が書いてくれた地図でだいたいあたりをつけて曲がりました。この道の途中には小さな村がいくつか点在していて、村の人たちの生活を垣間見ることができます。道路の右側には2ファーロング(1/8マイル)ごとに白い標石が置かれてあります。ファーロングとは古い距離の単位ですが、イギリス統治の影響からかミャンマーでは今でもよく使われています。両側に背の高い木が立ち並んでいるこの道を6マイルと2ファーロング(約10キロ)行くと左手にパゴダがあります。そのパゴダへと続く道を入ってすぐのところに壊れかけた竹造りの門があり、ここが同僚の農場です。

門を入ると左手にくぼ地があります。大きさは20メートル四方ほどで、今は乾期のため涸れていますが雨季になると水をたたえた池になるとのことです。6月から10月ぐらいまでは水があるので、ここで魚を養殖して乾期に入る頃に売るそうです。この池の右手と奥には果樹園や野菜畑が広がっています。今は乾期なので、灌漑用の水は地下水をポンプでくみ上げています。ほんの3メートルも掘れば水が出てくるそうです。また池のほとりには竹でつくった小屋が建っています。8畳ほどの小さな高床式の小屋です。同僚は週末にここにやってきて1週間の疲れを癒すそうです。月の夜には月明かりを、月のない夜には星空を楽しむことができる贅沢な空間です。夜になると涼しい風が吹き抜けさぞ気持ちがよいでしょう。都会のような騒音はいっさいなく、聞こえるのは人の話し声と虫や鳥たちの鳴き声だけです。

今日のハイライトはなんといっても夕日でした。魚やニワトリの揚げ物を肴にビールを飲んでしばらく休んだあと、5時半頃から夕日を見るために小屋を出ました。この夕日ウォッチのベストスポットは農場から100メートル足らずのところにある小さなパゴダです。ここは近所の村人たちにとって大切な信仰の場のようでした。夕方になり過ごしやすくなると近くから人が集まってきます。ここはヤンゴンにあるような大きなパゴダの豪華さや絢爛さはありませんが、村人たちの真摯な信仰の姿を見ることができます。たまたまパゴダに来ていた村人に聞いた話によるとこのパゴダはバガン王朝時代(11〜13世紀ごろ)に建てられ、廃墟となったあと100年ほど前に村人によって再建されたそうです。近年はまた傷みがひどくなっていたのですが、信仰心に厚いあるビルマ人女性が修復を支援して今のような姿を保っているとのことでした。このパゴダをバックに何度夕日が沈んだことでしょう。何百年と続いてきたこの地方の人々の営みに思いを馳せました。

何も視界を遮るものがない大地に沈む夕日は圧巻でした。沈みゆく太陽は黄色から、オレンジへ、そして赤へと色を変化させやがては静かに地平線の下へと姿を消しました。空は思ったほど色の変化はなく、太陽が沈んだあとはわりとあっさりと黒い夜の闇が空を支配しました。なんとも潔い田園の日没でした。


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